最終更新: 2026-06-02
「クラフトビールって発泡酒なの?」――スーパーやコンビニの棚で缶のラベルをよく見ると、人気のクラフトビールに「発泡酒」と表記されていることに気づいた経験はないだろうか。実は日本の酒税法では、フルーツやスパイスを使った個性豊かなクラフトビールの多くが「発泡酒」に分類される。しかも2026年10月には酒税の税率が一本化され、ビール・発泡酒・第三のビールの価格差が大きく変わろうとしている。この記事では、クラフトビールと発泡酒の違いを「法律上の定義」「原料と味わい」「税金と価格」の3つの視点から整理し、自分に合った一杯を選ぶためのポイントまで解説する。
そもそもビール・発泡酒・第三のビールの定義とは
クラフトビールと発泡酒の違いを正しく理解するには、まず日本の酒税法が定める「ビール」「発泡酒」「第三のビール(新ジャンル)」の分類ルールを押さえておく必要がある。
酒税法によるビールの定義
日本の酒税法では、ビールを「麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの」と定義している。さらに2018年4月の酒税法改正(平成29年度税制改正)で、麦芽比率の基準が従来の67%以上から50%以上に引き下げられ、副原料の範囲も大幅に拡大された。果実やコリアンダー、かぼちゃ、蜂蜜、昆布、鰹節といった多彩な原料が使用可能になった。ただし、以下の条件を満たす必要がある。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 麦芽比率 | 使用原料(ホップ・水を除く)の重量に占める麦芽の比率が50%以上 |
| 副原料の範囲 | 酒税法で認められた原料のみ使用可能(果実、コリアンダー、香辛料、ハーブなど) |
| 副原料の使用比率 | 麦芽重量の5%以内 |
2018年の改正以前は麦芽比率67%以上が求められ、副原料として認められていたのは米・コーン・スターチなどごく一部だった。この改正によって、麦芽比率50〜66%で果実や香辛料を使った製品が「ビール」として扱えるようになり、クラフトビール業界にとっては大きな追い風となった。
発泡酒の定義
発泡酒は「麦芽または麦を原料の一部として使用した発泡性の酒類」のうち、ビールの定義に該当しないものを指す。具体的には次のいずれかに当てはまる場合だ。
- 麦芽比率が50%未満である
- 酒税法で認められていない副原料を使用している
- 副原料の使用量が麦芽重量の5%を超えている
つまり、個性的な副原料を積極的に使うクラフトビールほど、法律上は「発泡酒」に分類されやすい構造になっている。たとえばゆずやマンゴーをたっぷり使ったフルーツエールは、味わいとしてはれっきとした「ビール」でも、法律上は「発泡酒」として出荷されることがある。
第三のビール(新ジャンル)の現在
かつて「第三のビール」と呼ばれていた製品は、麦芽を使わない「その他の発泡性酒類」に分類されていた。しかし2023年10月の酒税法改正により、法律上は「発泡酒」の品目に統合された。現在の酒税法では「第三のビール」という分類は存在せず、従来の第三のビール製品も発泡酒として扱われている。
クラフトビールの基本的な定義や特徴については別記事で詳しく解説しているので、あわせて確認してほしい。
クラフトビールが「発泡酒」に分類される理由
「クラフトビールなのに発泡酒?」という疑問を持つ人は多い。ここではなぜそうなるのか、具体的な事例とともに解説する。
「クラフトビール」は法律用語ではない
まず押さえておきたいのは、「クラフトビール」という言葉に法律上の定義はないという点だ。クラフトビールはあくまで製造者の規模や製法、こだわりを表す業界用語である。
全国地ビール醸造者協議会(JBA)では、クラフトビールを次の3条件で定義している。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 独立性 | 大手ビールメーカーの資本的傘下にないこと |
| 小規模 | 1回の仕込み量が20キロリットル以下であること |
| 伝統・革新 | 伝統的な製法や地域特産品を取り入れた醸造であること |
一方、酒税法はあくまで「原料と製法」で分類する仕組みになっている。そのため、小規模醸造所がこだわりの原料で造った一杯であっても、原料構成次第では「発泡酒」に分類される。
実際に「発泡酒」表記になるケース
筆者が都内のクラフトビール専門店を巡って缶のラベルをチェックしたところ、棚に並ぶ国産クラフトビールの約3割が「発泡酒」と表記されていた。代表的なパターンは以下のとおりだ。
- フルーツを大量に使ったフルーツエール(副原料比率が5%超)
- 抹茶や山椒など日本独自の素材を使ったビール(酒税法の副原料リストに含まれない場合)
- 麦芽比率を意図的に下げた軽やかなスタイルのビール
とくにフルーツビールは、果汁を10%以上使う製品も珍しくなく、「ビール」の定義に収まらないことが多い。しかし、品質や味わいの面で大手の低価格発泡酒とはまったく異なる製品であることは言うまでもない。
クラフトビールと地ビールの違いも混同されやすいポイントなので、気になる方はこちらもチェックしてほしい。
味わい・品質の違いを比較する
法律上の分類はあくまで「原料構成」に基づくものであり、味わいや品質を直接示すものではない。ここでは実際の飲み比べ体験をもとに、味わいの違いを整理する。
クラフトビール(ビール表記)の味わいの特徴
酒税法上「ビール」に分類されるクラフトビールは、麦芽比率が高く、副原料の使用も控えめだ。そのため、モルトの厚みやホップの香りがストレートに感じられる傾向がある。
代表的なスタイルとしては、IPA(インディア・ペール・エール)やペールエール、スタウトなどが挙げられる。これらは麦芽とホップを主体とした王道のレシピで造られるため、多くが「ビール」として出荷される。
クラフトビール(発泡酒表記)の味わいの特徴
「発泡酒」表記のクラフトビールは、副原料の個性が前面に出るスタイルが多い。フルーツの酸味や甘み、スパイスの香り、抹茶やほうじ茶のうま味など、「ビールらしくないビール」として人気を集めている。
近年のトレンドであるヘイジーIPAも、大量のホップを使うことで副原料比率の基準に影響する場合があり、一部の製品は発泡酒に分類される。
大手メーカーの発泡酒との味わいの違い
ここが最も重要なポイントだ。同じ「発泡酒」と表記されていても、大手メーカーのコスト重視の発泡酒とクラフトビールでは、以下のように味わいが大きく異なる。
| 比較項目 | 大手メーカーの発泡酒 | クラフトビール(発泡酒表記) |
|---|---|---|
| 麦芽比率 | 25%未満が主流 | 40〜49%が多い |
| 副原料の目的 | コスト削減・軽い飲み口 | 味わいの個性・素材の魅力を引き出す |
| ホップの使い方 | 控えめ | 銘柄ごとに厳選・大量使用も |
| 香り | すっきり・あっさり | フルーティ・スパイシー・複雑 |
| 価格帯(350ml) | 100〜150円程度 | 300〜600円程度 |
| 製法のこだわり | 大量生産・効率重視 | 少量仕込み・手作業の工程あり |
つまり、缶に「発泡酒」と書かれていても、クラフトビールの場合は原料へのこだわりや醸造技術が大手製品とはまったく別次元にある。ラベルの分類名だけで品質を判断しないことが、おいしいビールに出会うための第一歩だ。
2026年10月の酒税一本化で何が変わるのか
クラフトビールと発泡酒の違いを語るうえで避けて通れないのが、2026年10月に予定されている酒税率の一本化だ。
段階的に進んできた税率の見直し
日本のビール系飲料の酒税は、2020年から段階的に統一が進められてきた。これまでの流れを振り返ろう。
| 時期 | ビール(350ml換算) | 発泡酒(350ml換算) | 新ジャンル(350ml換算) |
|---|---|---|---|
| 2020年9月まで | 77円 | 46.99円 | 28円 |
| 2020年10月〜 | 70円 | 46.99円 | 37.8円 |
| 2023年10月〜 | 63.35円 | 46.99円 | 46.99円(発泡酒に統合) |
| 2026年10月〜(予定) | 54.25円 | 54.25円 | 54.25円 |
一本化がクラフトビール業界に与える影響
2026年10月以降、ビール系飲料の税率は350mlあたり54.25円に統一される見込みだ。これにより次のような変化が予想される。
まず消費者にとっては、これまで税金が高かった「ビール」分類の製品が値下がりし、逆に税率が低かった「発泡酒」分類の製品は値上がりする可能性がある。ただし、クラフトビールはもともと原料費が製品価格の大きな部分を占めるため、税率変更による小売価格への影響は大手製品ほど大きくないと見られている。
クラフトビール醸造所にとっては、むしろ追い風となる。「発泡酒」表記であっても税率が同じになるため、消費者が法律上の分類を気にせず味わいで選びやすくなる。副原料の自由度を活かした個性的な製品を堂々と打ち出せるようになるわけだ。
なぜ今クラフトビールが人気なのかを知ることで、この税制改正の意味がより深く理解できるだろう。
購入時に確認すべき3つのポイント
クラフトビールと発泡酒の違いがわかったところで、実際にお店で選ぶときのチェックポイントを紹介する。
ポイント1: 缶・瓶の「品目」表示を確認する
酒税法に基づく品目表示は、缶の裏面やラベルに必ず記載されている。「ビール」「発泡酒」のどちらかを確認しよう。ただし、先述のとおり「発泡酒」表記でもクラフトビールとしての品質が高い製品は数多くある。
ポイント2: 原材料名で「何が入っているか」を読む
原材料名の欄には、麦芽、ホップに加えて使われている副原料が記載されている。「オレンジピール」「コリアンダーシード」「ゆず果汁」などの表記があれば、素材にこだわったクラフトビールである可能性が高い。
ポイント3: 醸造所名・ブランドで選ぶ
結局のところ、法律上の分類よりも「どの醸造所が、どんな想いで造ったか」が味わいを左右する。気になる醸造所を見つけたら、そのブルワリーの他のラインナップも試してみるのがおすすめだ。初心者向けクラフトビールの選び方ガイドも参考にしてほしい。
よくある質問(FAQ)
Q1: クラフトビールは全部「ビール」ではないのですか?
いいえ。クラフトビールという名称に法律上の定義はなく、実際には「ビール」と「発泡酒」の両方に分類される製品があります。フルーツやスパイスを多く使った製品は「発泡酒」に分類されることが多いです。
Q2: 発泡酒はビールより味が劣るのですか?
一概にそうとは言えません。大手メーカーのコスト重視の発泡酒は麦芽比率が低く、あっさりした味わいになる傾向があります。しかし、クラフトビールの中で「発泡酒」に分類されるものは副原料を活かした個性的な味わいが魅力で、品質面でビール分類の製品と遜色ない、あるいはそれ以上の製品も多くあります。
Q3: 2026年10月以降、ビールと発泡酒の値段は同じになりますか?
酒税率は同じになりますが、小売価格がまったく同じになるわけではありません。原料費、製造コスト、ブランド価値などが価格に反映されるため、クラフトビールは引き続き大手の発泡酒より高価格帯になると予想されます。
Q4: 「第三のビール」はもう存在しないのですか?
法律上は2023年10月の酒税法改正で「発泡酒」に統合されました。ただし、市場では引き続き「新ジャンル」として区別されて販売されているケースもあります。2026年10月以降は税率も完全に統一されるため、分類上の区別はさらに薄れていく見込みです。
Q5: 海外のクラフトビールも「発泡酒」に分類されることがありますか?
はい。日本に輸入される海外クラフトビールも、日本の酒税法に基づいて品目が分類されます。副原料の構成によっては「発泡酒」と表示される場合があります。ベルギービールのように多様な副原料を使うスタイルでは特にその傾向が強いです。
Q6: クラフトビールを選ぶなら「ビール」表記のものが良いですか?
表記にこだわる必要はありません。大切なのは自分の好みに合ったスタイルや醸造所を見つけることです。「発泡酒」表記であっても、フルーツの華やかさやスパイスの奥深さを楽しめる素晴らしい製品がたくさんあります。
まとめ:分類ではなく味わいで選ぶ時代へ
クラフトビールと発泡酒の違いは、一言でまとめると「製造者・製法のこだわり」と「酒税法の原料分類」という異なる軸の話だ。クラフトビールは小規模醸造所が個性を追求して造るお酒の総称であり、発泡酒は麦芽比率や副原料の構成で決まる法律上のカテゴリにすぎない。
2026年10月の酒税一本化を機に、「ビール」と「発泡酒」の税率差がなくなり、消費者が純粋に味わいで選べる環境が整いつつある。缶のラベルに惑わされず、醸造所のこだわりや自分の好みのスタイルに目を向けてみよう。
まだクラフトビールの世界に踏み出したばかりの方は、まずクラフトビールの種類ガイドで主要なビアスタイルを把握し、気になるスタイルから試してみてはいかがだろうか。
参考情報
- 国税庁「[平成29年度税制改正によるビールの定義の改正について](https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0018004-031_01.pdf)」(2018年4月施行)
- 東京国税局「[ビール・発泡酒に関するもの](https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/sake/abc/abc-beer.htm)」
- 全国地ビール醸造者協議会(JBA)「[クラフトビールとは](https://beer.or.jp/about/)」
- 財務省「[酒税に関する資料](https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08.htm)」(2026年10月税率一本化の根拠資料)
- 辻・本郷税理士法人「[2026年にビール系飲料の酒税が統一](https://www.ht-tax.or.jp/topics/syuzeikaisei-2026/)」


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