最終更新: 2026-06-03
ビールの成分の約90〜93%は「水」であることをご存じでしょうか。たった4つの原料から何百ものビアスタイルが生まれるのは、それぞれの原料が持つ個性と、その組み合わせの妙があるからです。「クラフトビールって何が入っているの?」「副原料って最近よく聞くけど何が使えるの?」と疑問を持つ方は少なくありません。この記事では、クラフトビールの原料である水・麦芽・ホップ・酵母の4大主原料から、2018年の酒税法改正で大幅に拡大された副原料の世界まで、醸造の現場目線でわかりやすく解説します。まず主原料の基本を押さえたあと、副原料の種類と活用例、そして原料がビアスタイルをどう決めるのかを順に見ていきましょう。
クラフトビールの原料とは?4つの主原料を解説
クラフトビールの原料は、大きく「主原料」と「副原料」に分けられます。主原料とは、ビールを醸造するうえで欠かせない4つの素材のことです。
| 主原料 | 役割 | ビールへの影響 |
|---|---|---|
| 水 | ビールの約90〜93%を占める基盤 | ミネラル成分が味わいの方向性を決める |
| 麦芽(モルト) | 糖分を供給する | 色・甘み・コクを生み出す |
| ホップ | 苦味と香りを付与する | 苦味・フルーティーな香り・保存性向上 |
| 酵母(イースト) | アルコール発酵を担う | アルコール・炭酸ガス・風味成分を生成 |
この4つの原料が組み合わさることで、IPAの強烈な苦味からヴァイツェンのバナナのような甘い香りまで、多種多様なビアスタイルが生まれます。それぞれの原料をもう少し詳しく見ていきましょう。
水 ── ビールの味を土台から決める「見えない主役」
ビールの90%以上を占める水は、最も重要な原料と言っても過言ではありません。水に含まれるミネラル(カルシウム、マグネシウム、硫酸塩など)の量と比率が、ビールの味わいに直接影響します。
一般的に、ミネラル量が少ない軟水はすっきりとしたラガータイプのビールに向いており、ミネラル量が多い硬水はしっかりとした味わいのエールタイプに向いています。日本の水道水は軟水が多いため、国内のクラフトビール醸造所ではピルスナーやラガー系のスタイルと相性がよいとされています。
| 水質 | 特徴 | 相性のよいスタイル | 代表的な産地 |
|---|---|---|---|
| 軟水 | ミネラル少なめ、まろやか | ピルスナー、ラガー、ヘレス | チェコ・ピルゼン、日本各地 |
| 硬水 | ミネラル多め、しっかり | ペールエール、IPA、スタウト | イギリス・バートン、ドイツ・ドルトムント |
| 中硬水 | バランス型 | ヴァイツェン、アンバーエール | ドイツ・ミュンヘン |
醸造所によっては、使用する水のミネラル成分を調整する「ウォーターケミストリー」と呼ばれる技術を取り入れて、狙ったスタイルに最適な水質を再現しているケースもあります。ホップの種類についてはビールのホップの種類を徹底解説の記事で詳しく紹介していますが、ホップの個性を最大限に引き出すためにも水質の調整は欠かせません。
麦芽(モルト) ── 色・甘み・コクの源
麦芽は大麦を発芽させた後、熱風で乾燥・焙煎したものです。発芽の過程で大麦のデンプンを糖に変える酵素が生まれ、この糖分が後の発酵でアルコールに変わります。
麦芽の焙煎度合いによってビールの色と風味が大きく変わるのが特徴です。低温で軽く焙煎した「ペールモルト」は淡い黄金色のビールになり、高温でしっかり焙煎した「ブラックモルト」は漆黒のスタウトに仕上がります。
焙煎温度と時間を変えることで、ビスケットのような香ばしさ、カラメルのような甘さ、チョコレートやコーヒーのようなロースト感など、さまざまな風味を生み出せます。麦芽の種類や特徴の詳細はビールの麦芽の種類と特徴ガイドで解説しています。
ホップ ── 苦味と香りの立役者
ホップはアサ科の多年草で、ビールに苦味と香りを与える原料です。ホップの雌花に含まれる「ルプリン」という黄色い粉がビールの風味を左右します。
ホップには大きく分けて3つのタイプがあります。
| タイプ | 特徴 | 使用目的 | 代表品種 |
|---|---|---|---|
| ビタリングホップ | α酸が多く苦味が強い | 煮沸の序盤に投入して苦味を付ける | マグナム、コロンバス |
| アロマホップ | 香り成分が豊富 | 煮沸の終盤に投入して香りを付ける | カスケード、シトラ |
| デュアルパーパス | 苦味と香りの両方 | どちらの目的にも使える | センテニアル、アマリロ |
特にクラフトビール業界では、アメリカンホップの柑橘系やトロピカルな香りが人気を集めています。近年は日本産ホップ(ソラチエース、ムラカミセブンなど)も注目されており、国産ホップを使ったクラフトビールは独自のテロワールを感じられるとして評価が高まっています。
煮沸後にホップを加える「ドライホッピング」という技法もあり、これについてはドライホッピングとは?で詳しく解説しています。
酵母(イースト) ── アルコールと風味を生み出す微生物
酵母は糖分をアルコールと炭酸ガスに変換する微生物です。ビール造りにおける酵母の役割は発酵だけではなく、発酵の過程でエステル(フルーティーな香り成分)やフェノール(スパイシーな香り成分)などの風味成分も生成します。
ビール酵母は大きく2種類に分けられます。
| 酵母の種類 | 発酵方法 | 発酵温度 | 生まれるスタイル |
|---|---|---|---|
| エール酵母(上面発酵酵母) | 液面上部で活発に発酵 | 15〜25℃ | IPA、ペールエール、スタウト、ヴァイツェン |
| ラガー酵母(下面発酵酵母) | 液面下部でゆっくり発酵 | 5〜15℃ | ピルスナー、ラガー、ボック |
エール酵母は比較的高い温度で発酵するため、フルーティーで複雑な風味が特徴です。一方、ラガー酵母は低温でじっくり発酵させるため、クリーンですっきりした味わいに仕上がります。この違いについては上面発酵と下面発酵の違いでさらに掘り下げています。
また、近年は「ワイルドエール」や「サワービール」で使われるブレタノマイセスや乳酸菌など、従来のビール酵母とは異なる微生物を活用する醸造法も広がっています。酵母の種類ごとの特徴はビール酵母の種類と違いを徹底解説をご覧ください。
副原料の世界 ── 2018年酒税法改正で広がった可能性
2018年4月の酒税法改正は、日本のクラフトビール業界にとって大きな転機でした。この改正により、ビールの定義が大幅に見直されています。
改正前は、ビールに使用できる副原料は米、麦、トウモロコシなどに限られていました。それ以外の原料を加えると「発泡酒」に分類されていたため、クラフトビールメーカーにとっては表現の幅が制限されていたのです。
改正後は以下の副原料がビールとして使用可能になりました。
| カテゴリ | 使用可能な副原料の例 |
|---|---|
| 果実 | 柚子、みかん、りんご、マンゴー、ベリー類 |
| 香辛料 | コショウ、シナモン、山椒、バジル、コリアンダー |
| 野菜 | さつまいも、かぼちゃ、トマト |
| その他食品 | 蜂蜜、食塩、味噌、茶(抹茶・ほうじ茶)、コーヒー、ココア |
| 海産物 | 牡蠣、昆布、わかめ、鰹節 |
ただし、副原料の使用には条件があります。使用した副原料(果実および一定の香味料)の重量が麦芽重量の5%を超えない範囲でなければ、ビールではなく発泡酒に分類されます(2018年4月施行、酒税法改正)。
この改正によって、日本の地域特産品を活かしたビールが「ビール」として堂々と名乗れるようになり、各地の醸造所で個性的なクラフトビールが次々に誕生しています。
日本ならではの副原料活用 ── 地域特産品とビールの融合
日本のクラフトビール業界で注目されているのが、各地の特産品を副原料に使った「ご当地クラフトビール」です。地産地消をテーマに、その土地ならではの素材をビールに取り入れることで、他にはない味わいと物語を生み出しています。
| 副原料 | 産地・特色 | ビールへの効果 |
|---|---|---|
| 柚子 | 高知県・徳島県 | 柑橘系の爽やかな香りとほのかな酸味 |
| 山椒 | 和歌山県・奈良県 | ピリッとしたスパイス感とハーブ香 |
| 抹茶 | 京都府・静岡県 | 独特の苦味と深いグリーンの色合い |
| かつお節 | 静岡県・鹿児島県 | うま味の奥行きとスモーキーな風味 |
| さつまいも | 鹿児島県・茨城県 | 甘みとまろやかなボディ感 |
| 蜂蜜 | 各地の養蜂場 | 自然な甘さと花の香り |
醸造の現場では、こうした副原料を使いこなすには繊細なバランス感覚が求められます。あるブルワーは「副原料はスパイスと同じで、入れすぎると主役の麦芽やホップの個性を殺してしまう。あくまでビールの骨格を活かしながら、ほんの少し新しい表情を加えるのがコツ」と語っています。副原料の比率が麦芽重量の5%以内という酒税法の制限も、結果的にビールとしてのバランスを保つ方向に作用していると言えるでしょう。
なお、「ビール」と「発泡酒」の定義の違いについてはクラフトビールと発泡酒の違いで詳しく解説しています。
原料とビアスタイルの関係 ── 何がビールの個性を決めるのか
4つの主原料と副原料の組み合わせ方によって、数百種類ものビアスタイルが生まれます。ここでは代表的なスタイルと、味を決める原料の関係を一覧にまとめました。
| ビアスタイル | 味の決め手となる原料 | 特徴的な風味 |
|---|---|---|
| ピルスナー | 軟水 + ペールモルト + ザーツホップ | すっきりした苦味と黄金色 |
| IPA | アメリカンホップ(大量投入) | 柑橘系・トロピカルな強い香りと苦味 |
| スタウト | ローストモルト + 硬水 | コーヒー・チョコレートのようなロースト感 |
| ヴァイツェン | 小麦麦芽50%以上 + エール酵母 | バナナ・クローブのフルーティーな香り |
| ベルジャンホワイト | 小麦 + コリアンダー + オレンジピール | スパイシーで爽やかな口当たり |
| サワーエール | 乳酸菌・ブレタノマイセス | 心地よい酸味と複雑な風味 |
| フルーツビール | 各種果実(副原料) | 果実由来の香りと色彩 |
このように、同じ「麦芽・ホップ・酵母・水」という基本構成でも、それぞれの品種や配合比率、投入タイミングを変えるだけで、まったく異なるビールが完成します。クラフトビールの種類について体系的に知りたい方はクラフトビールの種類ガイドもあわせてご覧ください。
また、ビールの原料から完成品になるまでの全工程についてはビール醸造工程の解説で一連の流れを紹介しています。
クラフトビールの原料に関するよくある質問
Q1: クラフトビールと大手メーカーのビールで原料に違いはありますか?
基本の4原料(水・麦芽・ホップ・酵母)は同じです。ただし、クラフトビールはホップの品種や麦芽の焙煎度合いにこだわり、少量多品種で個性的な味わいを追求する点が大手メーカーとの違いです。大手メーカーはコストや安定供給の観点から、米やコーンスターチなどの副原料を使って軽い味わいに仕上げることが一般的です。
Q2: 「麦芽100%」のビールは味が違うのですか?
麦芽100%のビールは、副原料を使わない分だけ麦芽本来のコクや甘みが前面に出ます。一般的に味わいがしっかりしており、麦の風味を存分に楽しめるのが特徴です。一方で、米やコーンを加えたビールは軽快で飲みやすい仕上がりになるため、どちらが優れているというわけではなく好みの問題です。
Q3: 日本の水道水でビールは造れますか?
日本の水道水は軟水で不純物が少ないため、ビール醸造のベースとしては優れています。ただし、塩素を除去する必要があるほか、目指すビアスタイルによってはミネラルを添加して水質を調整する場合もあります。国内の多くのクラフトビール醸造所では、地元の湧水や井戸水を使用するケースも少なくありません。
Q4: ホップは日本でも栽培されていますか?
栽培されています。岩手県遠野市は日本最大のホップ産地として知られており、キリンビールとの連携で長い栽培歴があります。そのほか北海道上富良野町で生まれた「ソラチエース」は海外でも高い評価を受けている日本産ホップ品種です。近年は各地のクラフトビール醸造所が地元でのホップ栽培に取り組む動きも広がっています。
Q5: 副原料を使ったビールは「本物のビール」ではないのですか?
2018年4月の酒税法改正により、果実や香辛料などの副原料を麦芽重量の5%以内で使用したものも法律上「ビール」として認められています。ベルギーでは古くからコリアンダーやオレンジピールを使った「ホワイトビール」が伝統的に醸造されてきた歴史があり、副原料の使用はビール文化の多様性を象徴するものです。
Q6: グルテンフリーのビールは何から作られていますか?
グルテンフリービールは、大麦の代わりにソルガム(モロコシ)、米、そば、キヌアなどのグルテンを含まない穀物を主原料として醸造されます。また、通常の大麦麦芽で醸造した後にグルテンを酵素で分解する「グルテン除去」タイプもあります。
Q7: ビールの原料は季節によって味が変わりますか?
ホップと麦芽は農作物のため、収穫年や産地によって品質が異なります。特にホップは収穫直後の「フレッシュホップ」(生ホップ)を使った限定醸造ビールが秋に各醸造所から発売されることがあり、乾燥ホップとは異なる青々しい香りを楽しめます。6月の時期であれば、旬の枝豆をおつまみにフレッシュなピルスナーを合わせるのもおすすめです。
まとめ:クラフトビールの原料を知ると、一杯がもっと楽しくなる
クラフトビールの原料について、ポイントを整理します。
- クラフトビールの主原料は「水・麦芽・ホップ・酵母」の4つで、それぞれがビールの味わいに重要な役割を果たしている
- ビールの約90〜93%を占める水は、軟水か硬水かでスタイルの方向性が変わる
- 麦芽の焙煎度合いがビールの色と風味(ビスケット〜チョコレート)を決める
- ホップの品種と投入タイミングが苦味と香りのバランスを左右する
- 酵母の種類(エール酵母・ラガー酵母)が発酵スタイルとフレーバーを生み出す
- 2018年の酒税法改正で副原料の範囲が拡大し、果実・香辛料・茶・海産物などを使った個性的なビールが「ビール」として醸造可能になった
次にクラフトビールを手に取るとき、ぜひラベルの原材料表示を確認してみてください。どんな麦芽やホップが使われているのかがわかると、味わいの予測ができるようになります。まずはクラフトビールの種類ガイドで気になるスタイルを見つけて、その原料構成に注目してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
業界の最新データについてはクラフトビール業界データまとめページで定期更新しています。
参考情報
- 国税庁「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」(2018年4月改正)
- よなよなエール公式サイト「ビールの原料」(https://yonasato.com/column/guide/detail/craft_beer/material/)
- ビールの縁側「ビールの原料は?副原料別おすすめクラフトビールを紹介」(https://beer-engawa.jp/blog/column/beer-ingredients/)
- 東京国税局「ビールの原料って?」(https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/sake/seminar/r5/2305/material.htm)
- スペントグレイン「クラフトビール作りに欠かせない!ビールの5つの原材料」(https://spentgrain.co.jp/column/uncategorized/raw-materials/)

コメント