「いつか自分だけのクラフトビールを造りたい」――ビール好きなら一度は思い描いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、いざ開業を調べ始めると「酒類製造免許って何?」「ビール免許と発泡酒免許はどう違うの?」「そもそも資格がないと始められないの?」と疑問が次々に湧いてきます。免許制度は酒税法に基づく独特の仕組みで、一般的な飲食業の開業とは大きく異なるため、情報を整理するだけでもひと苦労です。
本記事では、BrewHub編集部がクラフトビール醸造所の開業に必要な資格・免許・届出を2026年3月時点の最新情報で徹底解説します。酒類製造免許の種類と違い、取得要件と申請手順、免許以外に必要な許可、さらに開業費用の目安まで網羅的にカバーします。
記事の後半では、未経験からクラフトビール開業を実現するためのキャリアロードマップを独自にまとめました。まずは全体像をつかみ、次に各免許の詳細を理解し、最後にあなた自身の開業プランを具体化する――そんな流れで読み進めてください。
クラフトビール開業に「資格」は必要?結論から解説
結論から言えば、クラフトビールの醸造そのものに「国家資格」は必要ありません。医師や弁護士のように、特定の資格試験に合格しなければ業務ができないという仕組みではないのです。
ただし、「免許」は必須です。日本で酒類を製造・販売するには、酒税法に基づく酒類製造免許を取得しなければなりません。これは資格(個人のスキル証明)ではなく、事業を行うための行政上の許可です。
| 項目 | 資格(国家資格) | 免許(酒類製造免許) |
|---|---|---|
| 性質 | 個人のスキル・知識の証明 | 事業を行うための行政許可 |
| 必須か | 不要(推奨される民間資格はある) | **必須**(無免許製造は酒税法違反) |
| 取得先 | 各資格の認定団体 | 所轄税務署(税務署長が付与) |
| 更新の有無 | 資格による | なし(ただし継続要件あり) |
| 取り消しリスク | なし | 要件違反で取消の可能性あり |
つまり、「資格がないから開業できない」のではなく、「免許を取得すれば、未経験者でも開業は可能」というのが正確な答えです。
推奨される民間資格・検定
免許とは別に、以下の民間資格は知識の体系化やブランディングに役立ちます。
- **ビアテイスター**(日本地ビール協会):ビールの品質評価スキルを証明する資格
- **ビアジャッジ**(日本地ビール協会):ビアテイスターの上位資格
- **ビール検定(びあけん)**(日本ビール文化研究会):ビール全般の知識を問う検定
- **BJCP(Beer Judge Certification Program)**:国際的なビール審査員の認定プログラム
これらは開業の必須条件ではありませんが、特にビアテイスターは自分の造ったビールを客観的に評価する力を養うために、取得しておく価値があります。
酒類製造免許を徹底解説|ビール免許 vs 発泡酒免許
クラフトビール開業の核心となるのが酒類製造免許です。酒税法では酒類を品目別に17種類に分類しており、ビール関連で取得を検討する免許は主に2種類あります。
ビール製造免許と発泡酒製造免許の違い
| 比較項目 | ビール製造免許 | 発泡酒製造免許 |
|---|---|---|
| **最低製造数量基準** | **年間60kL以上** | **年間6kL以上** |
| 350mL缶換算 | 約171,000本/年 | 約17,100本/年 |
| 麦芽比率の条件 | 50%以上(2018年改正後) | 50%未満、または規定外副原料使用 |
| 使用可能な副原料 | 規定された副原料(香辛料・果実等を含む。麦芽重量の5%以内) | 制限なし(麦芽比率が50%未満であれば自由度が高い) |
| 製品の表示 | 「ビール」と表記可能 | 「発泡酒」と表記(2026年3月時点) |
| 初期投資の目安 | 3,000万〜6,000万円以上 | 500万〜3,000万円程度 |
| 取得の難易度 | 製造量のハードルが高い | 小規模事業者向け |
2026年3月時点の実務上のポイント: 小規模なブルーパブやマイクロブルワリーを開業する場合、多くの事業者がまず発泡酒製造免許の取得を選択しています。年間6kLという最低製造数量基準は、月あたり約500Lに相当し、小型の醸造設備でも十分に達成可能な数量です。
2018年の酒税法改正で変わったビールの定義
2018年4月の酒税法改正により、ビールの定義が大きく変わりました。
- **麦芽比率**:従来の「67%以上」から「50%以上」に引き下げ
- **副原料の拡大**:米・麦・トウモロコシに限られていたものが、香辛料・果実・かつお節など多様な副原料が使用可能に(ただし麦芽重量の5%以内)
この改正により、フルーツやスパイスを使った個性的なビールも「ビール」と表記できるようになり、クラフトビール業界には追い風となっています。
2026年10月の酒税一本化の影響
2026年10月には、ビール系飲料の酒税が1kLあたり155,000円(350mL換算で約54.25円)に一本化されます。
- **ビール**:2023年10月時点の63.35円から約54.25円へ引き下げ
- **発泡酒**:46.99円から約54.25円へ引き上げ
- **新ジャンル(第三のビール)**:段階的に引き上げられ一本化
この税率統一により、ビール免許で製造した「ビール」と、発泡酒免許で製造した「発泡酒」の税負担の差がなくなります。クラフトビール事業者にとっては、ビール免許を取得するメリットが相対的に高まる可能性があります。ただし、最低製造数量基準(60kL)というハードルは変わらないため、小規模事業者にとっては引き続き発泡酒免許が現実的な選択肢となるでしょう。
免許取得の4つの要件と取得までの流れ
酒類製造免許を取得するには、酒税法で定められた4つの要件(実務上は5つに細分化されることもあります)をすべて満たす必要があります。
要件1:人的要件
申請者が以下に該当しないことが求められます。
- 酒税法や国税通則法の規定により罰金刑に処せられ、刑の執行後3年を経過していない者
- 国税・地方税の滞納処分を受け、処分の日から3年を経過していない者
- 免許を取り消されたことがあり、取消の日から3年を経過していない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わった日から3年を経過していない者
法人の場合は、役員全員がこれらに該当しないことが求められます。
要件2:場所的要件
製造場の所在地が以下に該当しないこと。
- 正当な理由なく、酒類の製造免許を取り消された製造場と同一の場所
- 酒税の保全上、酒類の需給の均衡維持上、不適当と認められる場所
実務的には、住居専用地域での開業が困難な場合があるため、物件選定の段階で税務署に事前相談することが重要です。
要件3:経営基礎要件
事業を継続的に運営できる経営基盤があることを証明する必要があります。
- 十分な資金力があること(事業計画書、資金計画書の提出が必要)
- 経営の安定性が見込めること
- 酒税の納付に支障がないこと
要件4:技術・設備要件
適切な製造技術と設備を有していること。
- 酒類の製造に必要な技術的能力を有する者(醸造経験者の配置など)
- 製造に必要な設備が整っていること
- 製造見込数量が最低製造数量基準を満たしていること(ビール:60kL/年、発泡酒:6kL/年)
需給調整要件
上記4つに加え、酒類の需給均衡を乱さないことも要件として審査されます。
免許取得までの流れ
酒類製造免許の取得は、以下のステップで進めます。
| ステップ | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 1. 事前相談 | 所轄税務署の酒類指導官に相談。事業計画・物件について助言を受ける | 開業の1年以上前が理想 |
| 2. 物件確保 | 醸造所となる物件を確保(賃貸契約締結)。免許申請には物件が必要 | 1〜3か月 |
| 3. 設備導入計画 | 醸造設備の選定・見積もり取得 | 1〜2か月 |
| 4. 申請書類の作成 | 製造免許申請書、事業計画書、資金計画書、設備図面等を作成 | 1〜2か月 |
| 5. 申請書の提出 | 所轄税務署に申請書類一式を提出(e-Taxでの提出も可能) | — |
| 6. 審査 | 税務署による書類審査・現地調査 | **標準処理期間:約4か月** |
| 7. 免許付与 | 審査通過後、税務署長から免許を付与される | — |
注意点: 物件の賃貸契約後に申請を行うため、審査期間中も家賃が発生します。実際には事前相談から免許取得まで8か月〜1年以上かかるケースも珍しくありません。スケジュール管理と資金計画が極めて重要です。
開業に必要な資格・免許以外の許可・届出
酒類製造免許だけでは開業できません。以下の許可・届出も必要です。
食品衛生法に基づく営業許可
醸造所で製造した酒類を提供する飲食スペースを併設する場合(ブルーパブ形態)、保健所から飲食店営業許可を取得する必要があります。
主な要件:
- **食品衛生責任者の配置**:各施設に1名以上の食品衛生責任者を配置する義務があります。調理師、栄養士などの資格保持者か、都道府県の養成講習会(約6時間、受講費用は約10,000円前後)を修了した者が就任できます
- **HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理**:2021年6月から完全義務化されています。衛生管理計画を作成し、記録を残す必要があります
- **施設基準の適合**:厨房の構造、手洗い設備、換気設備等が基準を満たしていること
酒類販売業免許
醸造所で製造したビールを、併設のタップルーム以外の場所(小売店、イベント等)で販売する場合には、別途酒類販売業免許が必要です。
| 免許の種類 | 用途 | 申請先 |
|---|---|---|
| 一般酒類小売業免許 | 店頭での小売販売 | 所轄税務署 |
| 通信販売酒類小売業免許 | ネット通販での販売 | 所轄税務署 |
| 酒類卸売業免許 | 飲食店・小売店への卸売 | 所轄税務署 |
重要: 自社醸造所の併設タップルームで、自社製造の酒類を提供する場合は、酒類販売業免許は原則として不要です(製造免許の範囲内で提供可能)。ただし、他社製のビールも併せて販売する場合は、小売業免許が必要になります。
その他の届出
- **開業届**(税務署):個人事業の場合
- **法人設立届出書**(税務署・都道府県・市区町村):法人の場合
- **防火対象物使用開始届**(消防署):飲食スペースを設ける場合
- **深夜酒類提供飲食店営業開始届出**(警察署):深夜0時以降に酒類を提供する場合
開業費用の目安と3つの開業モデル比較
クラフトビール醸造所の開業費用は、業態と規模によって大きく異なります。ここでは、代表的な3つの開業モデルを比較します。
| 費用項目 | モデルA:ブルーパブ(併設型) | モデルB:マイクロブルワリー(製造特化) | モデルC:委託醸造スタート |
|---|---|---|---|
| 醸造設備 | 1,000万〜2,000万円 | 2,000万〜3,000万円 | 0円(委託先の設備を使用) |
| 物件取得(敷金・保証金等) | 300万〜500万円 | 200万〜500万円 | 50万〜100万円(事務所のみ) |
| 内装・改装工事 | 500万〜1,500万円 | 300万〜800万円 | 0〜50万円 |
| 免許申請関連 | 30万〜50万円 | 30万〜50万円 | 不要(委託先が免許保有) |
| 研修費用 | 20万〜60万円 | 20万〜60万円 | 20万〜60万円 |
| 運転資金(6か月分) | 300万〜600万円 | 200万〜400万円 | 100万〜200万円 |
| **合計目安** | **約2,500万〜5,000万円** | **約3,000万〜5,000万円** | **約200万〜500万円** |
※ 上記は2026年3月時点の目安です。為替変動や原材料価格により変動する可能性があります。
各モデルのメリット・デメリット
モデルA:ブルーパブ(醸造所+飲食店併設)
- メリット:出来たてのビールを直接提供でき、利益率が高い。顧客と直接コミュニケーションが取れる
- デメリット:飲食店運営のスキルも必要。物件選定の難易度が高い
モデルB:マイクロブルワリー(製造特化)
- メリット:醸造に集中できる。卸売による安定した販路を構築可能
- デメリット:初期投資が大きい。販路開拓の営業力が必要
モデルC:委託醸造スタート
- メリット:初期投資を大幅に抑えられる。リスクを最小限にしながら市場を検証できる
- デメリット:製造を自社でコントロールできない。製造免許が不要な反面、自社ブランドの確立に時間がかかる
開業費用の詳細については、「ブルワリー開業費用の全貌|初期投資から運転資金まで徹底解説」で項目別に詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
【独自】未経験からクラフトビール開業を実現するキャリアロードマップ
「ビール造りの経験がまったくないけれど、いつか自分の醸造所を持ちたい」という方に向けて、BrewHub編集部が取材・調査をもとにまとめたキャリアロードマップをご紹介します。
フェーズ1:知識のインプット(0〜6か月目)
目標: ビール醸造の基礎知識と業界の全体像を把握する
具体的なアクション:
- **ビール検定(びあけん)の受験**:まずはビールの歴史・原料・スタイル・製法を体系的に学びましょう。3級から挑戦でき、独学で取得可能です
- **書籍・オンライン学習**:醸造学の基礎、酒税法の概要、ビジネスプランの立て方を学習
- **ビアフェスティバル・ブルワリー見学への参加**:業界関係者とのネットワークを構築する第一歩です
- **ホームブルーイング**:日本では酒税法によりアルコール度数1%以上の酒類の自家醸造は禁止されていますが、ビールキットを使ったノンアルコールビールの試作は可能です
この段階で身につけたい知識: ビールの基本スタイル(エール系・ラガー系)、原料(麦芽・ホップ・酵母・水)の役割、ビール醸造工程の全体像を理解しておくことが次のステップに役立ちます。
フェーズ2:実践的な醸造技術の習得(6か月目〜1年半)
目標: 実際の醸造設備を使った製造経験を積む
選択肢1:醸造研修プログラムに参加する
日本国内には、実践的な醸造研修を提供する施設があります(2026年3月時点の例)。
| 研修先 | 所在地 | 期間 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 丹後王国ブルワリー「地方創生ビール職人大学校」 | 京都府 | 短期2泊3日〜 | 約14万円(税込、宿泊別) |
| IB BREWING 醸造研修 | 福岡県 | 要相談 | 約7万円(税抜)〜 |
| クラフトビールカンパニー 醸造研修プラン | 東京都 | 1〜3か月 | 要問合せ |
| スペントグレイン 醸造研修 | — | 要相談 | 要問合せ |
| 東京アリューワークス ブルーイングスクール | 東京都 | コースにより異なる | 要問合せ |
※ 費用・期間は2026年3月時点の公開情報に基づきます。最新の情報は各施設に直接ご確認ください。
選択肢2:既存のブルワリーで働く
醸造研修だけでなく、実際にブルワリーに就職して現場で経験を積むルートもあります。未経験でも応募可能な醸造アシスタントの求人は、求人サイト等で定期的に募集されています。ブルワーの給与は、未経験の場合で月給20万円程度から、経験3年以上で月給27万円以上が一般的な目安です(2026年3月時点の求人情報を参考)。年収ベースでは300万〜500万円程度が中心的なレンジとなっています。
給与水準は一般的な製造業と比較するとやや低めの傾向がありますが、「好きなビールを仕事にできる」というやりがいや、将来の独立に向けた技術習得の機会として捉える方が多いのが実情です。
フェーズ3:事業計画の策定と資金準備(1年半〜2年半)
目標: 開業に向けた具体的な事業計画を作成し、資金を確保する
具体的なアクション:
- **事業計画書の作成**:ターゲット市場、差別化戦略、販路計画、収支計画を明確に
- **物件のリサーチ**:醸造所として使用可能な物件を調査。用途地域の確認が重要
- **資金調達の検討**:自己資金、日本政策金融公庫の融資、自治体の補助金・助成金、クラウドファンディングなどを組み合わせる
- **税務署への事前相談**:所轄税務署の酒類指導官に事業計画を相談し、免許取得の見込みを確認
フェーズ4:免許申請と開業準備(2年半〜3年)
目標: 免許を取得し、醸造を開始する
具体的なアクション:
- **物件の確保と賃貸契約**
- **醸造設備の発注・設置**
- **酒類製造免許の申請**(標準処理期間:約4か月)
- **食品衛生責任者の取得・営業許可申請**
- **試験醸造の実施**
- **販路の確保・プレオープンイベントの実施**
フェーズ5:開業と安定運営(3年目〜)
目標: 安定した醸造・販売体制を構築する
開業後は、品質の安定化、顧客基盤の構築、ブランドの確立が最重要課題です。最初の1年は特に、製造量の安定化と販路拡大に注力しましょう。
このロードマップのポイント: 未経験から開業まで最短でも2年半〜3年は見ておくのが現実的です。焦って開業するよりも、醸造技術と経営知識の両方をしっかりと身につけてからスタートする方が、長期的な成功確率は格段に高くなります。
業界経験者の声
BrewHub編集部が取材を重ねる中で、複数の醸造所オーナーから共通して聞かれるアドバイスがあります。それは、「まず既存のブルワリーで最低1年は働いてから独立すべき」という意見です。
座学や短期研修だけでは分からない現場のリアル――設備のメンテナンス、トラブル対応、原材料の仕入れ交渉、酒税の納付事務など――は、実際に現場で経験しなければ身につきません。未経験からいきなり開業して成功する例も皆無ではありませんが、開業後に直面する課題の多さを考えると、現場経験はリスクを大幅に軽減してくれます。
クラフトビール開業でよくある失敗と対策
開業を目指すなら、先人たちの失敗から学ぶことも大切です。ここでは、よくある失敗パターンとその対策をまとめます。
失敗1:物件契約と免許取得のタイミングのずれ
問題: 酒類製造免許の申請には、製造場(物件)を確保済みであることが条件です。つまり、物件の賃貸契約を結んでから免許が下りるまでの期間(最低4か月、実際には8か月以上かかることも)、家賃だけが発生し続けます。
対策: 税務署への事前相談を十分に行い、スケジュールを逆算して物件契約のタイミングを慎重に決めましょう。大家さんとフリーレント(家賃無料期間)の交渉を行うことも有効です。
失敗2:運転資金の見積もり不足
問題: 設備や内装に資金を使い切り、運転資金が不足するケースです。醸造してから販売できるまでには、発酵・熟成期間(最短でも2〜4週間)が必要であり、キャッシュフローに注意が必要です。
対策: 最低6か月分の運転資金を別途確保しておくことを推奨します。売上が計画通りに立たない場合を想定したシナリオ分析も必須です。
失敗3:免許の種類の選択ミス
問題: ビール免許を取得したものの、年間60kLの最低製造数量を維持できず、免許の継続が困難になるケースです。
対策: 小規模から始める場合は、まず発泡酒免許で開業し、事業が軌道に乗ってからビール免許の取得を検討するのが堅実です。
失敗4:販路を確保せずに開業
問題: 「おいしいビールを造れば売れる」という考えで開業し、販路開拓に苦戦するパターンです。
対策: 開業前から地元の飲食店、酒販店、イベント主催者とのネットワークを構築しておきましょう。ブルーパブ形態なら、併設の飲食店で直接販売できるため、販路リスクを軽減できます。
失敗5:酒税事務の負担を過小評価
問題: 酒類製造業者は、毎月の製造数量・出荷数量・在庫数量の報告が義務付けられています。水の使用量、麦芽の使用量、廃棄量なども細かく記録・報告する必要があり、この事務負担を過小評価して、本業の醸造に支障が出るケースがあります。
対策: 開業前に税務署の酒類指導官から報告義務の詳細を確認し、記録・管理のシステムを整えておきましょう。税理士や行政書士への業務委託も検討する価値があります。
よくある質問
Q1. 未経験でも酒類製造免許は取得できますか?
はい、取得は可能です。酒類製造免許の取得に「醸造経験○年以上」といった明確な経験要件は法律上ありません。ただし、技術・設備要件として「酒類の製造に必要な技術的能力を有する者」の配置が求められます。未経験の場合は、醸造研修の修了証明や、醸造経験者を従業員として雇用する計画を示すことで、この要件をクリアする方法が一般的です。
Q2. 酒類製造免許の申請費用はいくらですか?
酒類製造免許の申請には登録免許税がかかります。新たに免許を取得する場合、1件あたり15万円です(2026年3月時点)。これに加え、行政書士に申請書類の作成を依頼する場合は、別途15万〜30万円程度の報酬が発生することが一般的です。
Q3. 自宅の一部を醸造所にすることはできますか?
法律上は不可能ではありませんが、実務的には非常に困難です。場所的要件として、用途地域の制限(住居専用地域では原則不可)や、排水・騒音・臭気の問題があります。また、食品衛生法上の施設基準を満たす必要もあるため、一般的な住宅をそのまま使用することは現実的ではありません。
Q4. 発泡酒免許で造ったビールは「クラフトビール」と名乗れますか?
「クラフトビール」という用語は法律上の定義がないため、発泡酒免許で製造した製品を「クラフトビール」と呼ぶこと自体に法的な問題はありません。ただし、酒税法上の分類は「発泡酒」であるため、商品ラベルには「発泡酒」と表記する必要があります。消費者に誤解を与えないよう、適切な表示を心がけましょう。
Q5. 免許取得までにどのくらいの期間がかかりますか?
税務署への申請から免許付与までの標準処理期間は約4か月です。ただし、これは申請書類がすべて整っている場合の目安であり、書類の不備や追加資料の要求があれば、さらに時間がかかります。事前相談から開業までの全体スケジュールとしては、8か月〜1年以上を見込んでおくのが現実的です。
Q6. 酒類製造免許を取得した後に、製造量が最低基準を下回った場合はどうなりますか?
製造免許付与後に、正当な理由なく1年以上継続して酒類の製造をしていない場合や、製造見込数量が最低製造数量基準を満たさなくなった場合は、免許の取消事由に該当する可能性があります。ただし、即座に取り消されるわけではなく、税務署から改善指導が行われるのが通常の流れです。
Q7. 海外のビール醸造資格(IBDなど)は日本で有効ですか?
海外の醸造資格(IBD:Institute of Brewing and Distilling のディプロマなど)は、日本の酒類製造免許の取得要件を直接満たすものではありません。しかし、技術的能力を証明する補助的な書類として、審査時にプラスに評価される可能性はあります。また、醸造技術の体系的な習得や、国際的なネットワーク構築という点では非常に価値があります。
まとめ
クラフトビール醸造所の開業に必要な「資格」と「免許」について、本記事の要点を整理します。
免許・資格の要点:
- クラフトビール醸造に国家資格は不要だが、**酒類製造免許は必須**
- 小規模開業なら**発泡酒製造免許**(最低年間6kL)が現実的
- 大規模を目指すなら**ビール製造免許**(最低年間60kL)を検討
- 2026年10月の酒税一本化により、ビール免許のメリットが相対的に拡大
- 免許以外にも**食品衛生法の営業許可**、**酒類販売業免許**などが必要
開業までのステップ:
1. ビール醸造の基礎知識を習得する
2. 醸造研修やブルワリー勤務で実践経験を積む
3. 事業計画を策定し、資金を確保する
4. 物件を確保し、税務署に免許を申請する(標準処理期間:約4か月)
5. 開業後は品質の安定化と販路拡大に注力する
最後に: 未経験からの開業は決して不可能ではありませんが、十分な準備期間(2年半〜3年が目安)と現場経験が成功の鍵です。まずは醸造研修への参加や、既存ブルワリーでの勤務から始めて、技術と人脈を着実に築いていきましょう。クラフトビール業界は、情熱を持って良いビールを造る人を歓迎する温かいコミュニティです。
参考情報
本記事の作成にあたり、以下の情報源を参照しました(2026年3月時点)。
- **国税庁「酒類製造免許関係 Q&A」**(
(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/03a/05.htm)):酒類製造免許の要件、最低製造数量基準、申請手続き等に関する公式情報【酒類製造免許関係】|国税庁
- **国税庁「酒類の製造免許の申請」**(
(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sake/annai/23600069.htm)):申請書類、標準処理期間(4か月)等の公式情報E1-1 酒類の製造免許の申請|国税庁
- **財務省「酒税に関する資料」**(
(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08.htm)):2026年10月の酒税一本化に関する税率情報
酒税に関する資料 : 財務省酒税に関する資料 - **スペントグレイン「ビール製造免許とは?取得要件となる製造量についても紹介」**(
(https://spentgrain.co.jp/column/opening-guide/license/)):ビール免許と発泡酒免許の違い、実務上の選択基準ビール製造免許とは?取得要件となる製造量についても紹介 | クラフトビール醸造設備、ブルワリー開業支援ならスペントグレインビールの製造免許を取得するうえで、要件となる最低製造数量は、年間60kL以上です。ビール製造免許の拒否要件や取得方法、取得までにかかる費用についてもご紹介します。
- **辻・本郷 税理士法人「2026年にビール系飲料の酒税が統一」**(
(https://www.ht-tax.or.jp/topics/syuzeikaisei-2026/)):酒税改正の詳細と事業者への影響
2026年にビール系飲料の酒税が統一 ~酒税法改正であなたのお酒代が変わる? |税務トピックス | 辻・本郷 税理士法人平成30(2018)年に酒税法が改正され、令和8(2026)年10月までに段階的に酒税率が変わることとなりました。発泡酒・第三のビールは税率が上がり、ビールは逆に税率が下がります。いつ、どのくらい税率の変化があるのか、どんな目的から改正が行... - **東京都保健医療局「改正食品衛生法の営業許可と届出」**(
(https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyokatodokede/index.html)):食品衛生法に基づく営業許可制度の最新情報改正食品衛生法の営業許可と届出(令和3年6月1日から施行)|「食品衛生の窓」東京都保健医療局


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